【文学の現在ゼミ】名作が名作とは限らない
『源氏物語』が映画化されました。実は『源氏物語』は今までにも何度か映画化されています。Wikipediaで調べてみると、長谷川一夫が主演した『源氏物語』(1951)、『源氏物語 浮舟』(1957)、市川雷蔵が主演の『新源氏物語』(1961)など、当時の2枚目俳優を主役とした映画が見つかります。監督や脚本には映画界の大物として知られる人物の名前が見られます。さらに、1966年には武智鉄二監督による『源氏物語』、2001年には天海祐希主演の『千年の恋 ひかる源氏物語』、そして先ごろ公開された生田斗真主演の『源氏物語 千年の謎』と、合計6本の映画があります。
それぞれの映画はそれなりの魅力があると思いますが、決定版というものはまだ出ていないようです。また、吉村公三郎監督、衣笠貞之助監督という大物監督の作品ですが、だからといって彼らの代表作というわけではありません。
実は、小説の映画化は古今東西、ずいぶん多く見られます。ところが、名作の映画化で成功した作品は意外と少ないことはあまり知られていません。文学の現在講義でとりあげた『オペラ座の怪人』についても同じことが言えます。

『オペラ座の怪人』はフランスのガストン・ルルーが1910年に世に出した小説です。その後、何度も映画化されています。しかし、ガストン・ルルーの代表作は『オペラ座』ではなく、密室殺人のトリックで有名な『黄色い部屋の秘密』です。
映画化された『オペラ座の怪人』は、最初の1925年の作品は原作にかなり忠実に作られていますが、その後の作品は『オペラ座の怪人』とはいうものの、原作からかなり大きな改変がされています。一番最近のミュージカル映画では、原作の怪奇的な推理小説ではなく、怪人との三角関係になっています。

ミュージカルを作ったアンドリュー・ロイド・ウェッバーは「仮面の背後で」Behind the Maskというミュージカルの製作過程を記録した映画の中で「原作は正直なところ脈絡がなくまとまりにかける本だと思った。恋愛物なのかスリラーなのか推理小説なのかよくわからない。一貫性がなくいろいろなものを詰め込みすぎ」と言っています。
彼はこの原作を恋愛物として作り変えました。そのため、原作では重要なものとなる後半の部分をほとんど切り捨て、原作では前半の、それほど重要ではない一つのエピソードをミュージカルのクライマックスにもっていきました。それがオペラ座のシャンデリア落下の場面です。
原作が世に知られた名作の場合、内容を大幅に改変することはかなり難しくなります。多くの読者が原作に対してイメージをしっかり持っているからです。名作を映画にするとどうしてもそのイメージから逃れられません。その結果、名作映画は名作になりにくくなってしまうのです。
(ゼミ担当教員:日比野雅彦)
2012年01月12日(木) | 歴史・言語文化コース


